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2012年5月19日 (土)

高校英語と翻訳(2)

Surplice_fina_2

 イタリア人の老牧師が、片言の英語で、荷物はパリまでチッキにしたいのだという意味を、赤帽に呑み込ませようと骨折っているのに、口出ししてやったので二三分かかった。(延原謙訳)

……イタリア人の老牧師が……(日暮雅通訳)
 
 神父と牧師はどう違うか。これも英語の先生が心得ておくべき事柄だ。私は教室(高校ではなかったが)で「牧師と神父は区別してくださいよ」と言った覚えがある。キリスト教関係では、「預言者と予言者は違うのだよ」ということを得意そうに言う同僚もいた。僕はどういうわけか、これを言わなかった。高島俊男先生の『お言葉ですが』を週刊文春連載の末期になって読んで、胸をなで下ろした。こういうのは、語学の問題である。

 あるいは I am satisfied that the time has come when no good purpose is to be served by its suppression.の訳に

 真相を隠しておいても、もはや何の役にも立たない時節の到来したことを満足に思う。(延原謙)
 真相を伏せておくことがなんの役にも立たぬ時期の到来したことを、満足に思う。(阿部知二)
 世間から隠しておいても、なんの役にも立たない時がやって来て、わたしは満足している。(小林司、東山あかね)
 真実を秘匿していてもなんの益もない、という時が到来した。それを私は満足に思う。(深町真理子)

be satisfied は「満足に思う」ですか?

真相をかくしておくことがなんの役にも立たない時期が到来したのを、私はうれしく感じている。(大久保康雄)
真相を隠しても何の役にも立たぬ時期が来たことを、私はむしろうれしく思う。(中野康司)
真相を隠しておいても何の役にも立たない時期が来たことを、うれしく思う。(日暮雅通)

満足では変だと分かったようだ。しかし「うれしく」という日本語はどこから出てきたのかな? 三人の中では大久保氏の訳が一番古いらしい。前の訳を写しておいて「新訳」とはこれ如何に? 「翻訳はだんだん良くなる法華の太鼓でなければならない」と池田先生もおっしゃっているはずだ。

 これも高校程度の語学の問題である。シャーロキアーナがどうこうという問題ではない。

 別宮貞徳先生や古賀正義氏の指摘する誤訳も、だいたい高校程度の語学的間違いばかりだ。そういう訳本がまかり通っているのが変なのだ。「金返せ」と言われても仕方がない。
 実務的な翻訳の方では厳しい。誤訳や悪訳はお客さんが突き返してくる。当然だろう。だから、翻訳会社の方で用心してチェック係をつける。チェックをする人は特別によくできる人でなくてもよろしい。以前に私はreasonable priceを「合理的な価格」と訳したことがある。するとチェック係が「手ごろな価格」ではありませんか、と赤字で書き込んでいた。私がそれくらいのことを知らないとでも思っているのか、とむっとしたが、「普通はそうですが、この場合に限っては、売り手の側が『むやみに割引しないでreasonable priceを付けよう』と言っているのだから、「手ごろな価格』ではありません」と書いておいた。それでもチェック係が付くと付かないとでは大違いだ。ウッカリ一行抜かすようなミスは見つけてくれる。

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コメント

本件は以前もご指摘があった誤訳ですが、
OALDでは
believing or accepting that something is true
と説明があって、シノニムはconvincedでした。

ちなみに、私は駿台予備校で受験英語の神様、伊藤和夫先生に習いましたが、
先生の名著「英文解釈教室」にも厳しい批判が寄せられていることを知り、
上には上があるものだと思わされました。

http://www.wayaku.jp/study/study03.html

投稿: ころんぽ | 2012年5月19日 (土) 20時31分

「マザリンの宝石」のマザリンは、枢機卿(すうきけい)Jules Mazarin
のことだというのが通説となっている。
だとしたら、マザリンではなくマザランに表記を変えるべきだと思うのだが。

投稿: ころんぽ | 2012年5月19日 (土) 22時36分

なるほど、マザラン枢機卿だったのか。気がつかなかった。

投稿: 三十郎 | 2012年5月21日 (月) 09時33分

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