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2012年9月27日 (木)

翻訳者は裏切り者?

 《Traduttore, traditore》というイタリア語の警句がある。「翻訳者(トラドゥットーレ)は裏切り者(トラディトーレ)」つまり、どんな翻訳も原文を忠実に伝えることはできず、どうしても原著者の意を裏切ってしまう、という意味である。
 胸にぐさりとくる警句だ。私の職業は短期大学のフランス語教師である。だから、フランス語を日本語に、また日本語をフランス語にうつす作業は日常茶飯事だし、ときには一冊の本をそっくり翻訳することもある。つまり、私も翻訳者のはしくれ、「裏切り者」の一人というわけだ。 (筆者は長崎外語大学の先生らしい。http://www.nagasaki-gaigo.ac.jp/toguchi/works/tog_essai/traducteur.htm

 これはよく言われますね。
 しかし、そんな大袈裟なことを言う必要があるのか? 上記の「裏切り者」氏は何という原著者を「裏切った」のだろうか?
 私は翻訳者の「はしくれ」ではないつもりだが、似たようなことはありますね。特に日本語→英語の翻訳では原文を書き換えざるを得ないことが多い。
「どういう場合に保険金をいくら支払うか」とか「自動車の組み立て方」とかいうような文書は、英米人が読んでも中国人が読んでも日本人と同じに読めなくてはおかしい。しかし、英語と日本語はずいぶん構造が違うのだから、和英辞典だけを便りに「直訳」してはかえって読者に不親切だ。少々調整せざるを得ないけれども、別に「裏切り」ではないだろう。
 上の長崎外語教授の挙げる翻訳困難な場合の例。

《croissant》というフランス語がある。「三日月」のことだが、カタカナにすれば「クロワッサン」つまり三日月の形をしたパンである。私たち日本人には、「三日月」と「クロワッサン」とはまったく別の単語である。だから、この二つの語から連想するものも、それぞれ別だろう。しかも厄介なことに、フランス語の《croissant》からフランス人が抱くはずのイメージは、さらにまた違うのである。
 フランス人にとってこの語は、歴史的にはイスラムとくにオスマン・トルコ帝国(とその旗印)を連想させるものだった。さらに付け加えるとこの語は「成長・増大する」という意味の動詞の現在分詞形からきたものだ。また経済「成長」などと言うときに使われる語《croissance》(クロワッサンス)も関連語のひとつで、音からもすぐ連想しそうである。しかし翻訳では、こうしたイメージや意味の広がりを半分も伝えることができない。「三日月」であれ「クロワッサン」であれ、訳語はどれかひとつに決めなければならないし、決めたとたんに、もとのフランス語がもっていた広がりも切り捨てるほかないのである。 (引用終わり)

 なるほど、ブンガクでは実務よりも微妙な場合があるのか。
「古池や、蛙跳び込む水の音」の英訳は百種類くらいあるそうだ。その中にはfrogsと複数になっているものがいくつかあって、これなどは明白な「裏切り」だろう(と言うよりまったく分かっていないのだ)。
 日本語の小説の英訳で、「応援団長」が「袴」を履いて云々が、cheerleaderとskirtになっていた。普通のアメリカ人が読めば変に思うだろうが、他に訳しようがあるか? わざわざ日本文学を読もうという人なら分かってくれるだろうと思うしかないだろう。

Cheerleader_and_cheerleading_stunt_

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