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2012年11月19日 (月)

和文英訳の憂鬱(2)

 和文英訳で厄介なのは、できあがった英語がクライアントにも読めることだ。ブルガリア語にでも訳するのならば、よほど気が楽なのだが。
 大分前にある国際博覧会が開かれて、役所が海外からの参加者に対して出す通知を英訳させられた。
 この通知は「公式参加者は――して下さい」という形になっていた。これはOfficial participants are requested to――という英語で忠実な訳ができる。はじめはこう訳しておいた。
 ところがこの「公式参加者は――して下さい」が何度も繰り返されるのである。「公式参加者は○○証明書を何月何日までに提出して下さい」という具合で、役所のことだから、納税証明書をはじめとして、むやみにたくさんの証明書を要求する。
 これを

You must submit a certificate of X by――.

という英語にしたところ、クライアントから苦情が出た。
「当方は公式参加者は――と書いているのに、あなたは――とは何事か。書き直せ」というのだった。
「これが自然な英語です。はじめから英語で書くとすれば、You must――となるはずです。Youを「あなた」と訳してしまって考えるから、「馴れ馴れしい。失礼だ」という感じがするのです。You≠あなたです。英語では必ず主語が必要だから、Youが主語になることも多いのですが、日本語の「あなた」とは全く違います。仮にOfficial participantsを主語にするとすれば、証明書を単数にするか、複数にするかという問題も生じます。「A証明書を出す前にB証明書を出して下さい」はOfficial participants  are requested to submit certificates of B before they submit certificates of A.というような形になり、実に分かりにくい。You must submit――と書いておけば、個々の参加者の立場からは「自分は○○証明書を一通出せばよいのだ」ということが分かります云々」と、くだくだしい説明をする必要があった。向うが納得したかどうか。
「英語では、お父さんやお母さんに対してもYouを使うのです」と付け加えておいた方がよかったかも知れない。

「あなた」という日本語は実に変だ。山上の垂訓が口語訳聖書では「あなたがたの光を人々の前で輝かせ、人々があなたがたの良い行ないを見て、天におられるあなたがたの父をあがめるようにしなさい」という調子である。これではイエス・キリストがミシガン州立大学で三年間日本語を勉強してきたアメリカ人の宣教師みたいだ。「イエスさん、日本語お上手ですね」と誉めてあげたくはなるかも知れないが、信心する気にはならないだろう。

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