« またまた牧師か神父か | トップページ | コミッショネア »

2013年5月 8日 (水)

角川版シャーロック・ホームズを読む(1)

  "For Mr. Sherlock Holmes," he said, stepping into the room and handing my friend the letter.
  Here was an opportunity of taking the conceit out of him. He little thought of this when he made that random shot. "May I ask, my lad," I said, in the blandest voice, "what your trade may be?"

  "Commissionaire, sir," he said, gruffly. "Uniform away for repairs."

  "And you were?" I asked, with a slightly malicious glance at my companion.

  "A sergeant, sir, Royal Marine Light Infantry, sir. No answer? Right, sir."

  He clicked his heels together, raised his hand in salute, and was gone.

Stud04_2

「コミッショネア」はどう訳せばいいのだろうか、と思っていた。
 延原謙氏の訳では

「君、失敬ですが、ご職業は何ですか?」
「便利屋(コミッショネア)であります。制服はその、修繕(つくろい)に出していますんで」彼はぶっきら棒に答えた。

[カッコ内はルビ]

 グーグルで便利屋を検索してみると、たとえば「便利屋さくら組」という会社が上位に来る。http://benriya-sakuragumi.jimdo.com/「サービス内容」を見ると「草刈り、草抜き、農作業、庭仕事はお任せ下さい。また、遺品整理、引っ越しに伴う不用品処分やハウスクリーニング、住まいのトラブルからリフォームまで、サポートします」とある。
 これはちょっと違うだろう。ホームズの時代にこういうサービスはなかったと思う。
 角川文庫の駒月雅子訳では

「ご職業はなんですか?」
「メッセンジャーです」相手はそっけなく答えた。

 なるほど「メッセンジャー」でよろしいか。コミッショネアを別のカタカタで置き換えるなんてことは思いつかなかった。駒月氏は頭がいいなあ。僕が訳をつけるとしたら、駒月氏の訳語を借ります。翻訳はだんだんよくなる法華の太鼓でなければならない――I田D作先生。

 そもそもcommissionaireとは何であるか? ウィキペディア英語版では

In the UK and some former Commonwealth countries, a commissionaire is a doorman.

 とある。doormanならば、ドアマン、門番、門衛くらいの訳語になるか。
 さらにウィキペディアを見てみると、commissioaireはCorps of Commissionaireに雇用されている者という定義がある。Corps of Commissionaireは1859年にエドワード・ウォルター大尉が退役軍人に職を与えるために設立した団体なのだそうだ。下士官で退役した軍人がコミッショネア隊に入って、メッセンジャーなどの役を務める(門番などとして働くこともある)。制服を着るらしい。
 正典の他の物語にもコミッショネアが出てくるはずだ。どこでしょう?

|

« またまた牧師か神父か | トップページ | コミッショネア »

コメント

コミッショネアは「緋色の習作」「青いガーネット」「海軍条約」「マザリンの宝石」の4作品に出て来ます。
パシフィカ版のホームズ事典によると、コミッショネアは「1859年設立の雑役隊Corps of Commissionairesと呼ばれる、受けのいい退役軍人で組織された組合の一員で、制服を着用する。便利でかつ信用のおけるメッセンジャーとして、手紙や小包を配達したり、ガイドや付添人になったり、時間極め、あるいは日雇いでさまざまな仕事をする」そうです。
たしかに、日本語で「便利屋」と書いてしまうと、喧嘩でも夜逃げでも手伝う「何でも屋」の感がありますので、ウィキペディアでCorps of Commissionairesを引くと、the oldest security company in the worldとあるように、「間違いのない保安員」といったところなのでしょうね。
日本語に訳しづらいので、カタカナでコミッショネアとしておいて、注釈を付けるのも一案かと。

投稿: ころんぽ | 2013年5月19日 (日) 10時00分

私としたことが『マザリンの宝石』を忘れていた。「ガードマン」みたいなものか。しかし、これは訳語として使えないでしょうね。

投稿: 三十郎 | 2013年5月19日 (日) 10時12分

恐れ入りますが、「便利屋」は延原謙氏の訳ではないように思います。少なくとも新潮文庫版の46刷(発行は昭和56年8月30日)では「小使でござんすよ。整復はその、修繕(つくろい)に出していますんで。」となっています。
延原謙氏がどこかの時点で変更した可能性も否定できませんが、ご存じの通り新潮文庫版には息子さんによる改訂が入っており、このときにいわゆる「差別用語」がかなり変更されましたから、「便利屋」はそのときからの訳語ではないでしょうか。

投稿: Kishi | 2013年10月14日 (月) 10時37分

折原謙訳ではなく、改訂版だった! ありがとうございます。

投稿: 三十郎 | 2013年10月14日 (月) 15時02分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/21109/51547376

この記事へのトラックバック一覧です: 角川版シャーロック・ホームズを読む(1):

« またまた牧師か神父か | トップページ | コミッショネア »