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2013年5月17日 (金)

角川版シャーロック・ホームズを読む(4)

 悪の巨魁モリアーティ教授の経歴について、ホームズはどう説明したか?
 モリアーティ教授は、二項定理に関する論文によって若くしてさる地方大学の数学教授になったが

Dark rumours gathered round him in the university town, and eventually he was compelled to resign his chair and to come down to London, where he set up as an army coach.

 アーミー・コーチの訳が問題だったのだ。角川版で駒月文子氏はどう訳しているか?

「そこで今度はロンドンへ出て来て、陸軍お抱えの個人教師におさまった。」

「陸軍お抱え」というのはどういうことだろう? 陸軍に雇用されていたのか? 雇用とは少し違うのか?
 グーグルで見ると「おかかえ運転手株式会社」というのがある。「サービス紹介~おかかえ運転手では様々な形で運転を代行いたします」というのだから、僕がこのサービスを利用する際には自分で運転手を雇わなくてもいいらしい。

 しかし、黒い噂が立って大学を辞めざるを得なくなった者を陸軍が「お抱え」にするか?
 個人教師というが、誰に何を教えたのか? 駒月訳で見ると、やはり陸軍の軍人が個人として数学を習ったという風に読める。数学の個人教授を受けるような間抜けが現役の軍人では大英帝国が亡びてしまうよ。

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 ウィンストン・チャーチルは20歳で騎兵少尉に任官したが、1893年(シャーロック・ホームズ死亡説が流れた年)18歳でサンドハースト陸軍士官学校の入試に合格してからは「数学とは絶縁した」。

 アーサー・コナン・ドイルの弟イネスはチャーチルと同時代人だったが、彼はウールウィッチ陸軍士官学校に行った。

The Royal Military Academy (RMA) at Woolwich, in south-east London, was a British Army military academy for the training of commissioned officers of the Royal Artillery and Royal Engineers. (ウィキペディア英語版)

 砲兵と工兵の士官養成の学校だったようだ。ここでは数学が必修だっただろう。二項定理どころか微積分までみっちりと仕込まれたはずだ。しかし卒業して少尉に任官してから個人教師について数学を勉強するなんて馬鹿なことがあるか。数学が必要な兵科(砲兵と工兵)で数学ができなければ、士官学校は卒業できない。

 シャーロック・ホームズを読むのは愉しむためだから、たいていの人は翻訳で読む(僕はたまたま原文で読んでいるけれど)。正典の間違った翻訳を広めてはいけない。角川文庫、責任は重いよ。しかし、『愉しみ方』の存在理由があるというものだ。やはり、乃公出でずんば……

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