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2014年10月12日 (日)

シャーロック・ホームズ 七つの挑戦(2)

(七つの挑戦のうちの一篇『チェス・プレイヤーの謎』の事件では、スコットランドヤードのグレッグソン警部が221Bにやってきて
「サー・マサイアス・グルーヴィが殺害されたのだ」と言う。ホームズは例によってワトソンに自家製索引を取らせて見る。)

「どれどれ、サー・マサイアス・ジョン・チャールズ・ロブソン、グルーヴィ公、ロチェスター伯……」

 殺された人物はグルーヴィ公爵(Duke of Groovy)である。「グルーヴィ公、ロチェスター伯」というのは、公爵が伯爵の位も持っているということである。普通は、公爵を名乗り、伯爵の位は息子に名乗らせたりする。United KingdomのKing(Queen)が、一格下のPrince of Walesの位も同時に持っていて、皇太子(王太子)がPrince of Walesと名乗るのと同じである。ここまではよろしいが、
 
 「サー・マサイアス……」というのが変だ。原文の英語はどうなっているのか。イタリア語からの重訳では困る、ワトソンの書いた英語から直接訳してもらいたいなどと無理なことを言ったのは、このためである。「イタリア屈指のシャーロキアン」であるはずのエンリコ・ソリト氏は、英国の貴族制度のことをまったく知らない。
 
 貴族(公候伯子男の爵位を有する人物)を「サー」と呼ぶことはあり得ない。サーの称号は、シャーロック・ホームズやアーサー・コナン・ドイルのような平民が功績を挙げてナイトの位を与えられたときに名乗るのである。(サー・シャーロック、サー・アーサーと言い、サー・ホームズ、サー・ドイルとは言わない。ドイル卿などとするのは間違い――これについては前に「コナン・ドイル卿?」という記事を書いた。
http://sanjuro.cocolog-nifty.com/blog/2008/07/1_11f8.html
 ウィンストン・チャーチルは、公爵家の出身であるから一応は貴族であった。しかし、ウィンストンの父ランドルフは三男だったから、爵位はない。したがってウィンストンも厳密に言えば平民である。だからナイトの位をもらって、サー・ウィンストン・チャーチルになったのである。功績から言えば公爵か候爵をもらってもおかしくないのだが、爵位を持つと下院(平民院)の議員にとどまれない(上院に入れられてしまう)から断ったのだろう。
 天野泰明氏の訳者あとがきには
 
ホームズ研究でいういわゆる”整合性”をめぐる問題があると思われた箇所についても、専門家による今後の考究にゆだねるべきであると判断して訳者のいたずらな恣意を加えず、あえてイタリア語版本文のままに訳出したことをご諒解願いたい。

 とある。天野氏の間違いではなく、イタリア語版を作ったソリト氏が悪いのである。

 シャーロック・ホームズ研究の「専門家」としていさかか考究を試みたのが本稿である。

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