2008年5月24日 (土)

ヒル次官補の風采

Hill

 アメリカの国務省(つまり外務省)のヒル次官補は、テレビ報道で米鮮交渉が話題になるたびに、わが国の、茶の間での有名人に育ってきたように思います。
 が、生まれつき皮下脂肪が厚い日本人のかなしさでしょう、誰もあの異常なルックスを見て、「ピン」とは来ないようですね。
 あの顔は、「タフ・ネゴシエーター」の顔じゃないのですよ。
 ほんらい、あの顔では、「敵国」「強国」「大国」「重要相手先」との交渉役には、まかりまちがっても選任されない。それが、アメリカ人の間の常識ってもんです。
 国務省内に東洋通の有能な人材はいくらでも揃っているのに、あんなタマをわざわざ探し出し、(それも裏方の補佐役としてでなく)表の看板役者として起用したというところに、アメリカ政府の意図的すぎる思惑が示されています。
 もちろんそこにこそ、アメリカ/ブッシュ政権が内外に説明したいメッセージがこめられていた。
 すなわち、<アメリカは北朝鮮とはまじめな交渉はしないよ>と、最初から表明しているのです。<このレベルの担当者にやらせてますから><この担当者には、何の権限もイニシアチブも独創も許されていませんよ>と、言外に、あえて世界に知らせていたわけです。
(兵頭二十八)

 目からウコロとはこのことですね。
 兵頭氏の名前は「にそはち」と読む。
 兵頭二十八氏は軍学者を名乗っている。「軍学だなんて、山鹿流陣太鼓を叩いて吉良邸に討ち入るのか」と読まずに馬鹿にしていたのは、まことに不明であった。
 目からウロコは上の箇所だけではない。まことに創見に満ちた本である。
 
 米軍がフセインをやっつけるためにイラク侵略を始めたときに
「大量破壊兵器があろうとなかろうと、これはぜひ支持して、旗を見せて(show the flag)おかなくてはならない。アメリカには北朝鮮をやっつけてもらわなくてはならないのだから」
 という議論があった。大真面目でそういうことを言う人が多かった。
 どこが変か? 兵頭二十八氏の本を読んでみて下さい。

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2008年2月22日 (金)

ゴルゴ13の狙撃銃(3)

 ゴルゴ13は1968年に小学館のビッグコミック誌に連載が始まり、いまだに現役で活躍しているのですね。さいとうたかお先生に励ましのお便りを出そう。

G

 ゴルゴ13についてはずいぶん研究が進んでいる。
 ウィキペディアで「ゴルゴ13」を引くと、M16の狙撃銃としての使用の問題についても詳しく書いてある。以下引用

・現実のM-16について
  本来のM16は、軍用アサルトライフルである。狙撃銃としての精度は、大口径の銃・ボルトアクションライフルのほうが優れている。また「死者を出すよりも負傷者を増やすほうが、敵方へのダメージが大きい」という合理的理由により、殺傷能力は小さい(反面、携行弾数が多くなっている)。
  ただしM16はアサルトライフルとしては高精度である。遠距離狙撃には用いる事ができないが、100m程度の近距離狙撃には用いられる事もある。そのため特殊目的ライフル(Special Purpose Rifle)として、M16の狙撃銃型も存在する。
・作中でのM16の描写
  単純に任務を遂行する目的としては、M16がそぐわない事は、ゴルゴ13も承知の上である。しかしながらゴルゴ13はフリーランスの狙撃手であり、単純な狙撃をこなせばいいという訳ではなく、戦闘に突入する事も頻繁にある。よって、狙撃兼戦闘のための銃として、M16は最適の選択である。その意味をゴルゴは作中でAKシリーズを設計したカラシニコフに対して、「俺はワンマンアーミーだからだ」と一言で述べている。 (引用終わり)

「ゴルゴ13も承知の上である」と言うことだったのか。なるほど。
 しかし、ひとつ気になることがある。アサルトライフルって何だ?
 どうやら突撃銃assault rifleのことらしい。
 リーダーズプラス英和辞典で引いてみよう。

assault rifle
【軍】 突撃銃, アソールトライフル《大きな弾倉をもつ軍事用(半)自動ライフル; アソールトライフルタイプの民間人用の銃》.[G Sturmgewehr の訳; MP 44 に対し Hitler が命名]

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 assaultの発音はカタカナなら「アソールト」になるのは常識だと思うけれど、どうやら、アサルトライフルが定着してしまったようだ。
 詩人のRobert Browningは正しい発音でブラウニングと呼ぶが、
 有名な銃器設計者のJohn Browningはブローニングと呼ぶことになっているのと同じらしい。

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 私を起こしたのはライフルの安全装置を外す、カチャリという金属音でした。戦場にいる兵隊なら、たとえどれだけ深く眠っていようとも、その音を聞きのがすことはありません。それは何といいますか、特別な音なのです。それは死そのもののように重く、冷たいのです。私はほとんど反射的に、枕元に置いたブローニングに手をのばそうとしましたが、誰かにこめかみのあたりを靴底で蹴りあげられ、その衝撃で一瞬目が見えなくなりました。呼吸を整えてからうっすらと目を開けると、私を蹴ったらしい人間がかがみ込んで私のブローニングを拾い上げるのが見えました。ゆっくりと顔を上げると、二丁のライフルの銃口が私の頭に向けられていました。その銃口の向こうには蒙古兵の姿が見えました。
(間宮中尉)

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2008年2月21日 (木)

ゴルゴ13の狙撃銃(2)

 M16が狙撃銃には向かないことくらい、この本を読まなくても分かる?
  しかし、かのよしのりさんの本には、もう一歩奥がある。
  確かに軍隊ではM16(民間用としてはAR-15)を狙撃銃に使わないけれど、アメリカの警察では使っているところがあるという。

「警察の狙撃手は、人質を抱えている犯人の脳幹を撃ち貫かねばならない。距離は近いが、数センチの誤差しか許されない。……100メートルの距離で3センチ以内に撃ち込めるなら、人質の後ろから顔を半分だけ出している犯人の頭に命中させることもできる。」

「さて、ここにあるAR-15、一見どこにでもあるAR-15だが、口径5.56ミリではなく6ミリだ。223レミントン薬莢を口だけ広げて6ミリにしたものだ。……重くなったぶん、微妙に反動も大きくなってはいるのだが、銃身がヘビーバレルなので一般歩兵のM-16より反動による銃の動きは少ない。そして風の影響も少なくなっている。」

 かのよしのりさんは元自衛隊の銃器専門家で、火縄銃から中国軍の消音式サブマシンガンまで、ありとあらゆる銃を実際に撃っている。
 加えて文章がうまいのだから鬼に金棒である。

Bull

「標的を狙う。100メートル離れた標的を数ミリの誤差で狙う。人間の体は生きている以上、静止しない。引き金を引こうとすると、数ミリ標準がずれる。狙いなおす。引き金を引こうとすると、また照準がズレる。しかし、射撃訓練をかさねてゆくうちにそのブレはだんだん小さくなってゆき、微妙にズレているときに引き金を引きはじめ、引き落とした瞬間に誤差が最小になっている。
 7.62ミリ弾の半分くらいの銃声がして、反動で銃がわずかに動く。
 たいていの銃は反動で銃が跳ね上がり、命中の瞬間の標的を射手自身がスコープを通してみることはできない。命中を確認してくれるのは観測手だ。
 だが、この銃は反動で跳ね上がらない。スコープのなかでターゲットから赤い液体が飛び散るのが見える。
 いや、ターゲットはスイカだったのだよ、ほんと。」

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2008年2月20日 (水)

ゴルゴ13の狙撃銃(1)

 昔、歩兵銃がボルトアクション銃であった時代には、歩兵銃のなかから精度のよいものを選んで狙撃銃にしていた。しかし、歩兵銃が自動銃になり、さらに突撃銃に変わっていくと、それを狙撃銃に利用することには無理があって、一般歩兵の銃とは、まったく別の狙撃銃が装備されるようになった。

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 漫画のゴルゴ13では、しばしばM16で狙撃が行われている。しかし、アメリカ軍のみならず、どこの軍隊でもこの種の軽量自動小銃を狙撃銃として使うことはない。弾が軽すぎて、300メートル以上の距離になると風に流されやすく、さらに遠くなると威力不足になってくる。遠距離狙撃には、やはりある程度重い弾を使わなくてはならないのだ。
(かのよしのり『鉄砲撃って100!』p.122)

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2006年8月29日 (火)

2009年日中核戦争(5)

 Showdownに訳を付けるとすれば「決定的対決」である。元来は、ポーカーで手札をテーブルの上に出して「どうだ!」と見せることである。
 米ソ冷戦時代には、1962年のキューバ危機で核のshowdownがあった。このときはケネディが全面核戦争を辞さない姿勢を見せ、フルシチョフにキューバへのミサイル配備をあきらめさせた。一説によれば、ケネディが教会に行ったことをフルシチョフが知り、これは本気に違いないと思って折れることにしたのだという。

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 この時代の米ソの関係はMAD(Mutual Assured Destruction相互確証破壊)と呼ばれた。米ソいずれかが核ミサイルを発射すれば相手方が報復して、双方とも破滅することは確実であり、結果的に相互抑止力が働いていた。
 ところが、現在の中国に対しては核抑止力など働かないのではないか?
 2005年7月、ウォールストリート・ジャーナル紙の記者が国防大学防務学院院長の朱成虎少将にインタビューした。このとき朱少将は、台湾有事の際の対応を聞かれて
「米国が中国のテリトリー内の標的にミサイル等を使用すれば、我々としては核兵器で対応しなければならない」
「我々は西安以東の都市がすべて壊滅することも覚悟している。その代わり米国の方も数百の都市が中国によって破壊されることを覚悟してもらいたい」と述べた。驚いて問い直す記者に対して
「本土への地上攻撃だけではなく、中国のテリトリー内の中国航空機、船舶への攻撃に対しても中国は核で反撃する」と言明した。たとえば台湾に侵攻してくる中国艦船を米軍機が攻撃すれば、米本土への核攻撃で報復するということである。

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 この発言は日本ではほとんど報じられなかったが、米国には大きな衝撃を与えた。「西安以東が全滅しても構わない」というのだから、手が付けられない。米国の軍事力が中国のそれの何倍であっても無意味なのである。抑止力にはならないのだ。

 全米数百の都市に核ミサイルが降り注ぐとすれば、日本が無事のはずはない。行きがけの駄賃で全滅させられるだろう。

 本書はこの発言を検証しようとして書かれた。中国は着々と軍備増強を進めており、すでに戦争の方向に踏み出した(We believe that China has already decided in favor of war.---p.3)と著者たちは言う。
 台湾有事、新朝鮮戦争など、開戦のシナリオがトム・クランシー流の小説仕立てで語られる。2009年の日中戦争もその一つである。

第1章 次の戦争
第2章 台湾有事
第3章 第二次朝鮮戦争
第4章 カリブ海の戦争
第5章 日中戦争
第6章 中東石油戦争
第7章 マラッカ海峡
2章から7章までが開戦のシナリオである。さらに
第8章 中国とEU   
第9章 米中戦争防止策
が分析と政策提言である。
 本書は米国で6月に出版されベストセラーになった。

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2006年8月28日 (月)

2009年日中核戦争(4)

 このショーダウンShowdownは、日本の事情についてはいくらかトンチンカンなことも書いている。しかし米国の事情について記述に間違いがあると信ずる理由はない。著者二人のうち、ジェド・バビン氏はブッシュ(父)政権の国防副次官、エドワード・ティンパレイク氏はレーガン政権の国防総省動員計画部長だった(SAPIOによる)。
 著者たちが「民主党政権になれば米国は日中武力紛争に介入しない」と考えていることに注目すべきである。実際、クリントン政権の駐日大使モンデール氏は「尖閣諸島が第三国の軍事攻撃を受けても米国は日本のためにその防衛にあたる責務はない」と発言している。
 本書のシナリオでは、尖閣諸島どころか靖国神社にミサイルが撃ち込まれても、アメリカの大統領はまだ「国連の調停云々」などと言っている。自国領だと思っている沖縄を攻撃され、米兵に死傷者が出てはじめて反撃に出る――という想定は、アメリカの読者には自然なのである。
 98頁が第5章「日中戦争」の最終頁である。B-2爆撃機上の米兵二人の会話で話が進む。グアム島の基地は破壊されたのでインド洋のディエゴ・ガルシア島に移るところである。
 日本は降伏して尖閣諸島を中国に譲り(さらに、ここには書いてないが、二度と靖国神社に参拝しないことを約束させられたのだろう)、米国大統領は辞任して後任の大統領のもとで米中間にも一応の停戦が成立している。在日米軍は撤退し、太平洋の覇権は中国が抑えることになる。
 米兵たちはディエゴ・ガルシア島の新しい基地では「まともなバーがないし、インターネットの接続もひどい」などとこぼしている。大阪に落ちた核爆弾のことなど、しょせん他人事なのである。
「しかし、今度はジャップも怒っているだろうな」
「そりゃ、怒ってるだろう。そのうちに奴らも自前の核を持つだろう」
「ミサイルの照準をどちらに向けるだろう?」
「もちろん、両方さ。中国とアメリカの両方に向けるだろう」
(続く

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2006年8月27日 (日)

2009年日中核戦争(3)

 ショーダウン(Showdown)の75頁(全9章のうち第5章「日中戦争」)に戻ろう。
 2009年、米国初の女性大統領は民主党で(ヒラリーさんとは別の名前になっているが)、親中派で日本には冷淡である。
 中国は北京五輪の無理がたたって国内が疲弊している。胡錦涛を主席とする共産党政権は、反日感情をあおって人民の不満をそらせようとする。共産党は「日本の首相の靖国参拝は中国への戦争行為とみなす」と宣言する。
 7月(どういうわけか8月ではない)、日本の首相は靖国神社に参拝し、日本の伝統に従って「菊と刀」を奉納する(!)。中国は天皇の謝罪を要求する。
 8月3日、ついに中国が尖閣諸島への侵攻を開始する。自衛隊が応戦するが、中国は靖国神社に巡航ミサイルを撃ち込む。

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 日米安保条約の発動を求める日本の首相に対して、米国大統領は
「中国を刺激するなとあれほど言ったじゃありませんか。あなたが靖国に参拝なさったのがいけないんですよ。私は中国との戦争に巻き込まれたくない。……国連の調停を依頼しましょう」
 8月10日、北京では胡錦涛主席が首をひねっている。
「アメリカは何をしているのだろう。日米安保があるはずだが。……しかし北朝鮮も韓国に侵攻してアメリカは対応に追われている。予定通り進めることにしよう」
 予定通りとは、沖縄侵攻である。これにはさすがに在日米軍も反撃する。しかし、9月23日、北朝鮮が核ミサイルを発射する。10メガトンの原爆が大阪上空で爆発した 。

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 米国大統領はついに辞任する、というのが本書のシナリオであるが、もちろん我々としては米国大統領など、どうでもよい。

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2006年8月26日 (土)

2009年日中核戦争(2)

ショーダウンについて詳しくは、上をクリックしてAmazon.co.jpで見てください。

同書第1頁第1段落

 米国が冷戦に勝利を収めるには半世紀を要した。これは欧州を舞台にした第一次冷戦であった。ソ連との間で戦端を開かずに済んだのは、両超大国がイデオロギーと政治にとらわれていたとしても冷戦から熱い戦争に進むほどではなかったからだ。米ソが二大超大国として登場したのは同じ頃であり、第二次大戦の惨禍はまだ記憶に新しかった。この力の均衡は、やがて双方の核戦力によって強化された。現在超大国として台頭しつつある中国は、このような均衡とは無縁である。中国はいま米国を相手に太平洋で第二次冷戦を戦っている。この太平洋冷戦は欧州冷戦に劣らず長く続くかも知れない。一つだけ違いがあるとすれば、熱い戦争になる可能性がより大きい、ということだ。
 
この本は小学館の雑誌SAPIO最新号に紹介されています。(続く)

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2006年8月25日 (金)

2009年日中核戦争(1)

ホワイトハウス
2009年1月20日
16時35分

「センカク? それは何ですか?」歴史上はじめて「女あるじ」として大統領執務室に入った記念すべき日だというのに、この相手は何を言っているのだろう? ドロシー・クラッターバック大統領はいらだちを隠さなかった。彼女は民主党「中道派」のリベラルな州知事として実績を上げ、2億ドルを超える選挙資金を集めて大統領選に立った。三回にわたって行われたテレビ討論では、平静を失った相手候補に対して圧倒的な勝利を収めた。いま就任パレードがようやく終わり、パーティが始まろうというときである。日本の首相も就任祝いの電話をかけてくるタイミングを考えればいいのに。いつものように彼女の傍には報道担当官がいた。
 日本の首相の語調は例に似ず感情がこもっていた。
「尖閣、尖閣諸島であります、マダム・プレジデント。沖縄の近くにある島です。天然ガスが豊富なのです。我が国の領土でありますが、中国と台湾もそれぞれ領有権を主張しております」
「首相閣下、なるほど、お話は分かりますが、それほど緊急の問題なのですか?」
「緊急の問題です、大統領閣下。ごく小さな島々で、上陸は容易であります。しかも中国とロシアの海軍がこの尖閣諸島の近くで演習を行っております。共同演習は初めてです。中国とロシアが外交軍事協定を結んで侵攻してくるのではないかと、懸念しておる次第であります」
「よくお知らせいただきました、ありがとう、首相閣下。この問題は慎重に検討いたしまして、近日中にまたお話ししましょう。お電話、感謝いたします」
 大統領は電話を切って、二人の情報部門責任者の方に向き直った。CIA長官と国家情報会議議長である。二人とも前政権が任命したので、二三日中には解任するつもりである。
「まさか中国人も今晩の就任記念舞踏会の前に火蓋を切ったりしないでしょう」と大統領は言った。「せっかく新政権ができたばかりなんですからね。それに中国とは何も問題はないでしょう。向こうだって理性的に振る舞うと思うわ。この問題については、もう一言も聞きたくない」
「マダム・プレジデント」とCIA長官が答えた。「お言葉ですが、中国としては、お覚悟を試す絶好の機会だと思うかも知れません。前大統領の就任式直後に、我が国の偵察機を中国が強制着陸させる事件があったではありませんか」
「まさか。私は中国のことならよーく分かっているわ。前の大統領は分かってなかったの。つかず離れずの関係が大切なのよ。ほら、私、選挙運動中はあのジョン・マケインと始終ダンスしたでしょう。同じことは、ジャップとだって中国人とだってできます。まあ、見てらっしゃいな」
 大統領は会見を打ち切った。廊下に出て警護係の海軍中尉を呼んだ。「ねえ、私の美容師を呼んできてちょうだい」

上記ショーダウン(SHOWDOWN)の75-76頁。解説は明日

Hillary

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