手紙の結びにI remain……と書くのは、『ボヘミアの醜聞』に出てきました。
「あの女」アイリーネ・アドラーがホームズに残した手紙の締めくくりはどうだったか。
……and I remain, dear Mr. Sherlock Holmes,
Very truly yours,
Irene Norton, nee ADLER.
大いに感銘を受けたホームズはボヘミア王に「この写真をいただきたい」と言ったのだった。
servantの方は手紙ではなく、会話に出てきた。
"Your servant, Miss Morstan," he kept repeating in a thin, high voice. "Your servant, gentlemen. Pray step into my little sanctum. A small place, miss, but furnished to my own liking. An oasis of art in the howling desert of South London."
もちろんサディアス・ショルト氏ですね。このあとで彼は坐って、モースタン嬢とホームズとワトソンにアグラの財宝の話を聞かせるのだった。
しかし、Your servantはどう訳すればよいか。延原謙氏の訳は
「よくおいでなすった、モースタンさん」甲高くて力のない声で、彼は何度もくりかえし、「あなたがたもようこそ。さ、どうぞおはいり。狭苦しいところですが、私の好みで飾りつけました。この南ロンドンという荒漠たる砂漠のなかに作った美術のオアシスです」
まあ、こうでしょう。ほかの訳者も似たり寄ったりだ。私も特に名案はない。「あなたの召使」のような訳が出てくる余地はないようだ。
・こういうときにyour servantと口に出して言うのはよほど古風な英語であろう。
・モースタン嬢がいたから言ったので、ホームズとワトソンの男二人だけなら言わなかったのではないか。
と私は思うけれど、これが正しいかどうか自信がない。やはり外国語は隔靴掻痒だ。(愚妻my stupid wife、拙者 my shabby selfなど、文字通り取るとずいぶん変だが、それと似たようなものか。よく分からん。)
"your obedient servant"でグーグル検索してみると
http://onlinedictionary.datasegment.com/word/your+obedient+servant
のオンライン辞書にこう書いてある。
Your humble servant, or Your obedient servant, phrases of
civility formerly often used in closing a letter, now
archaic; -- at one time such phrases were exaggerated to
include Your most humble, most obedient servant.
[1913 Webster +PJC]
Our betters tell us they are our humble servants,
but understand us to be their slaves. --Swift.
[1913 Webster]
Your humble servantまたはYour obedient servantという言い方は、かつては手紙の結びによく儀礼的に使ったが、今では古めかしいものになっている。一時はもっと大袈裟にYour most humble, most obedient servantなどと書くこともあった。
スイフト(1667-1745)の例文
目上の者が自分はあなたのhumble servantです、などと書いてくることがあるが、なあに、こちらが先方の奴隷であることは先刻承知の上なのだ。
ガリバー旅行記のスウィフトの時代にはよく使ったというのだ。
白洲次郎は1920年代のケンブリッジで学生生活を送ったので、若い英国人から見るとずいぶん古風な英語を使うことがあったという。
マッカーサー宛書簡のYour obedient servantも単に「古風な英語」なのかも知れない。 しかし、「従順ならざる唯一の日本人」だったと聞いていたのに、どうもなあ、という気もする。
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